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アヨルザナが長編小説『シュグデン』を出版

卯年(2011年)の秋冬にかけて執筆されたアヨルザナの新作長編小説が、この度読者の手に届けられることとなった。小説のタイトルは『シュグデン』。

それは現代の仏教界において大きな議論の的となってきた、ある特異な信仰対象、護法尊の名であり、黄帽派の法王であるダライラマ14世がその信仰を禁じたことから、現在も多くの謎を含んだ論争を呼んでいる。

 

黄帽派の開祖ツォンカパの生誕地としてモンゴル人にもよく知られる青海省のクンブム大僧院(塔爾寺)で、ひとりの若い僧侶が謎の死を遂げる。事件の捜査のため、捜査犬課のモンゴル族の警察官が内モンゴルから派遣されるところから小説は始まる。ところが彼の相棒である中国北部で名を轟かせた優秀な捜査犬までもが事件の捜査中に不可解な死を遂げてしまう。不幸な事件が迷宮入りしかけた頃、この内モンゴルの警察官は思いがけず事件の渦中に巻き込まれていき、個人的に捜査を始める。その過程で、彼の祖先が信仰してきた仏教について、多くの気付きを得ていく。

謎の死を遂げた若い僧侶が「シュグデン」を信仰していたことから、この長編小説のタイトルが名付けられているが、同時にこの語句はチベット語で「捕える者、掌握する者」という意味を表しており、タイトルには二重の意味も込められている。

 

小説では、中国内に生きるモンゴル族の運命を辿ると同時に、僧侶の戒律の乱れや今日の倫理観との齟齬、宗教界内部における思想的極論に囚われた様子や信仰者間の相互不理解、大国の政策の犠牲となっている少数民族が不屈の闘いを続けるも、その勢力が衰退の一途を辿る状況などが描かれる。モンゴル民族の分断、亀裂の問題が小説の基層低音として流れている。

 

著者は本著の冒頭に「アジャ・リンポチェ(Arjia Rinpoche)に捧げる」と記している。フフノール(青海)出身のこのモンゴル族の転生僧は、ダライラマ14世以降、社会主義の国境を越えて米国に亡命した黄帽派の最も高位の僧侶である。